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あさひまち物語 ~文化と風景~

泊鉈 vol.1

鍛冶屋と朝日町での歴史

泊鉈


初めに

こんにちは、ささです! 皆さん、「泊鉈(とまりなた)」について聞いたことがありますか? これは朝日町に伝わる伝統工芸品の一つで、桜町にある大久保製作所の大久保中秋さん(以下、大久保さん)は、現在「泊鉈」を生産している唯一の鍛冶屋です。泊鉈についてみていく前に、今回は鍛冶屋の歴史と朝日町での鍛冶屋、またその特徴について紹介します。


泊鉈の特徴と、大久保さんの経歴や想いについては、次回以降の記事で紹介していきます。


取材には、大久保製作所さんにご協力いただき、一部写真は朝日町観光協会の上澤聖子さんからご提供いただきました。

1章 鍛冶屋全体の歴史

『朝日町誌文化編』(1984, p. 311, ※1)によると、「元来、鍛冶屋は木地師(※2)と同様に漂泊生活を送っており、その特殊技術ゆえに定着農耕民から畏怖、神聖視されていたと思われる。その「渡り鍛冶」が都市部への人口集中と日用品の需要増加に伴い、定着生活に入ったのがいわゆる「居職鍛冶」と呼ばれる人々である。」との記載があります。

 

鍛冶屋は、元々定住して仕事をしていなかったのは驚きですね!


鍛冶屋は工業の始まりと言われており、昔はカンナ、ノミなど金属製のものは鍛冶屋でないと作れませんでした。今はどんなものでも工場において、大量生産で作れてしまいます。このような産業化による時代の流れとともに、鍛冶屋を必要とする人が少なくなっていきました。例えば、昔は田んぼの作業には、田を耕す鍬(すき)などの農具が必需品でした。その道具は鍛冶屋が作っていました。しかし、耕運機などの重機が登場したことで、これがあれば農具がなくても田んぼ仕事ができるようになってしまったのです。

農具を作っている様子

朝日町で鍛冶屋をしてる大久保さんは、農具の需要が下がってきてるが、鍛冶屋が全くいないとかえって都合が悪いこともあるため、仕事を続けています。鉈作りだけでなく、先述した農具の生産や、壊れた包丁の柄を直す仕事をすることもあります。ただこの例は稀で、昔と違って既製品が使えなくなってしまうと、そのまま捨ててしまう人達が多くなってきています。「高いお金を出して良いものを長く使うという習慣が、薄れてきているのかもしれない」と、おっしゃっていました。

 

鍛冶屋に対するイメージをぼんやり持っている方は多いと思いますが、ここまで人々に重宝されていた職業であったとご存知でしたか?私は鍛冶屋を利用する習慣がなかったため、昔と今の鍛冶屋に対する需要の変化がすごく大きいと感じました。

 

今と比べて、昔は鍛冶屋という仕事はよく知られていました。その例として、「村の鍛冶屋」という曲が1912年に文部省唱歌として作成されました。作詞・作曲者は不明ですが、4番まで書かれていたそうです。1922年の訂正によって、歌詞の一部が変更され、2番まで短縮された上、題名も「村のかじや」とひらがな表記となりました。唱歌として4年生の教科書に載っていたくらい有名な曲で、大久保さんも小学校の時に歌っていました。鍛冶屋の数が少なくなってくると、その仕事について知らない子供たち増えてきたため、曲が教科書からなくなってしまったのです。以下、「村のかじや」の歌詞を掲載しています。

一、

しばしも休まず 槌うつ響き 飛び散る火花よ 走る湯玉

ふいごの風さえ 息をもつがず 仕事に精出す 村の鍛冶屋


二、

あるじは名高い 働き者よ 早起き早寝の やまい知らず

永年鍛えた 自慢の腕で 打ち出す鋤(すき)鍬(くわ) 心こもる

※1出典:朝日町(1984)『朝日町誌文化編』第一法規出版株式会社.

※2木地師(きじし)とは、ろくろを使って椀や盆などの木工品の加工や製造を行う職人のこと。

2章 朝日町での鍛冶屋の歴史

泊鉈とは、朝日町で生産されていた山仕事用の農具です。(※3)この生産が全盛であった頃は、大久保さんが認知できるだけでも、鍛冶屋は道下地区に30軒ほど存在していました。多くの鍛冶屋が集まっていたことから、その一帯は「カンジャ(※4)町」と呼ばれていました。


近隣の市町村にも鍛冶屋がありましたが、現在泊鉈を生産しているのは、大久保製作所の1軒のみとなっています。富山県内に鍛冶屋は現存していますが、農業用の鉈を製作しているのは、大久保製作所だけです。


また『朝日町誌文化編』(1984, p. 313)には、朝日町の鍛冶屋の信仰として、「仕事場には常に不動明王を祀り、職業仏として信奉している。不動明王が鍛冶屋の守護仏となる由縁は、その背後に火炎を背負っていること及び手に剣を保持していることからである。一般的に見られる稲荷神・荒神・金屋子神はここで信仰されていないのである。」と記録されています。


このことから、朝日町の鍛冶屋は他の地区と異なり、不動明王を祀っているという特徴があります。実際に大久保さんも、不動明王の剣を自作し、作業場に飾っています。その隣には、不動明王の絵も飾られています。

 

今でもこの特徴が受け継がれているのですね!

実際に大久保製作所の作業場にある、不動明王の絵(右)とその剣(左)

※3この特徴や製造方法は、次回の記事で紹介します。

※4カンジャは、鍛冶屋が訛った言葉、方言。

3章 鍛冶屋の特徴

鍛冶屋について大久保さんにお話を伺うと、4つの特徴が見えてきました。


1つ目は、機械のない時代に、手作業で槌(※5)を台とを平行に当てることがすごく難しかったこと。大久保さんは「つちゃあ、かたがる!」(方言で、槌が、斜めになるぞ!という意味)と弟子入りした当時は、親方に怒られていました。斜めに振り下ろしてしまうと、刃に槌の縁が跡としてついてしまい、見栄えが悪くなってしまいます。真っ直ぐに槌を当てなくてはならず、大変でした。今は自動で叩いてくれる機械を使っているため、作業がしやすくなりました

機械を使って、作業をしています。

2つ目は、焼きを入れる作業に、一番神経を使うことです。「焼きを入れる」という作業は、刃物を作る際、鉄に埋め込んでいる鋼の硬さを調整するために必要です。熱した刃を水に入れて、温度を下げる工程があり、これに使用する水の温度が大切で、冷たすぎても、熱すぎてもいけません。鍛冶屋にとって、焼きを入れるための水は神聖なものです。自分で温度を測るとき、水に異物が入らないように小指だけ入れて確認するくらい、気を遣っています。焼きは一番最後の工程で、失敗すると刃にヒビが入ってしまい、商品にならなくなってしまうため、最も大切な作業です。なのでこの工程の間は、鍛冶屋の家族でも作業場を離れる時があるくらい、集中力が入ります。

実際に作業されている、大久保さん。

3つ目は、縁起の悪いものを嫌うことです。『朝日町誌文化編』(1984, p. 313)では、「鍛冶屋は仕事場を清潔に保つことに意を用い、カナシキ台や道具一式を女人が跨ぐことを極度に嫌った。」と紹介されています。ここは2つ目の特徴と重なる部分もありますが、鍛冶屋、特に刃物を作る場合はとても繊細な作業を伴うため、縁起には気を遣っています。実際大久保さんの親方も気を遣っていて、葬式から帰って鍛冶屋に寄って行った人がいたら、その後塩を撒いていたことがあったそうです。集中して作業を行うためにも、環境をしっかりと整える必要があったのですね!


4つ目は、刃物や農機具以外にも製作しているものがあることです。鍛冶屋というとこの2つを思い浮かべる人が多いと思いますが、それだけではありません。鍛冶仕事に使う、鉄などを挟むためのはしという道具や金槌も手作りしています。実際地味な仕事が多い中で、大久保さんは過去に華やかなものだと、鳩が相向かいになった門扉を、自分でデザインして作りました。他にも自身の作業小屋の骨組みも手作りしており、本当に金物であれば何でも作れるのですね!

 


※5槌(つち)とは、鉄を打って平にするための道具。金属で作られていれば金槌(かなづち)、木製のものは木槌(きづち)と呼ばれる。

終わりに

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

 

鍛冶屋の歴史についてまとめましたが、いかがだったでしょうか?

 

時代とともに、人々の需要が大きく変わり、鍛冶屋のお仕事も減ってきたのですね。

また、縁起の良さを大切にしていることは、あまり知られていないかもしれません!

 

次回は、泊鉈について紹介するので、お楽しみいただけると嬉しいです!

ご協力いただいた方々

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大久保製作所

〒939-0714 富山県下新川郡朝日町桜町743-8

TEL 0765-82-2187

HP : https://www.asahi-tabi.com/asahimachi/256/

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一般社団法人朝日町観光協会

〒939-0744 富山県下新川郡朝日町平柳688

TEL/0765-83-2780 FAX/0765-83-2781

HP : https://www.asahi-tabi.com/

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その他の活動

活動の様子はこちらでも見ることができます!

ぜひチェックしてみて下さいね~!

 

note: https://note.com/yui_sas1217

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※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。

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